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M&A用語解説
株式移転(かぶしきいてん)
株式移転とは、一又は二以上の株式会社がその発行済株式の全部を新たに設立する株式会社に取得させる組織再編行為をいい、新たに設立する会社を完全親会社とする完全親子会社関係を作り出す手法です(会社法2条32号)。株式移転により設立される会社を「株式移転設立完全親会社」、発行済株式の全部を取得される会社を「株式移転完全子会社」といい、株式移転完全子会社の株主は、原則として、株式移転設立完全親会社の成立の日に、その保有株式に代えて株式移転設立完全親会社の株式の割当てを受けます(会社法773条・会社法774条2項)。1社だけで行う株式移転(単独株式移転)のほか、2社以上が共同して行う株式移転(共同株式移転)も認められています(会社法772条)。
株式移転を行うには、株式移転計画を作成し、株式移転設立完全親会社の目的・商号・本店の所在地・発行可能株式総数、設立時取締役の氏名のほか、株主に交付する株式の数(又はその算定方法)とその割当てなどを定めます。株式移転完全子会社の株主には原則として株式移転設立完全親会社の株式を交付する必要があり(種類株式発行会社では、一定の種類の株主に割り当てない定めも認められています)、これに加えて同社の社債や新株予約権などを交付することもできます(会社法773条1項5号・7号・3項1号)。株式移転計画は、株式移転完全子会社の株主総会の特別決議による承認を受ける必要があります(会社法804条・会社法309条2項12号)。また、株式移転完全子会社の株主に交付する株式等の全部又は一部が譲渡制限株式等である場合には、株式移転完全子会社が公開会社(種類株式発行会社を除きます)であれば株主総会の特殊決議が(会社法309条3項3号)、種類株式発行会社であれば一定の種類株主総会の特殊決議が(会社法804条3項・会社法324条3項2号)必要となる場合があります。株式交換と異なり、株式移転には、簡易・略式の手続によって株主総会決議を省略する規定は設けられていません。反対株主は、自己の株式を公正な価格で買い取るよう会社に請求することができ(会社法806条)、一定の新株予約権者にも新株予約権買取請求が認められています(会社法808条)。株式移転では株式移転完全子会社の事業・資産・負債は移転しないため、債権者保護手続は原則として不要ですが、株式移転完全子会社の新株予約権付社債に付された新株予約権に代えて株式移転設立完全親会社の新株予約権を交付し、同社がその社債に係る債務を承継する場合には、当該社債権者を対象とする債権者保護手続が必要です(会社法810条1項3号)。株式移転の効力は、株式移転設立完全親会社が本店の所在地で設立の登記をし、成立した日に生じます(会社法49条・会社法774条1項・会社法925条)。
税務上は、株式移転完全子法人の株主に株式移転完全親法人の株式以外の資産(反対株主の買取請求に基づく対価として交付される金銭等を除きます)が交付されず、かつ、当事法人間の資本関係等に応じた要件を満たす株式移転は「適格株式移転」に該当します(法人税法2条12号の18)。要件は当事法人間の資本関係等によって異なり、法人税法及び法人税法施行令に定められています。適格株式移転に該当しない場合には、株式移転の直前に他の株式移転完全子法人との間に完全支配関係があった場合を除き、内国法人である株式移転完全子法人が有する一定の時価評価資産の評価損益を、株式移転の日の属する事業年度の所得の計算上、益金又は損金に算入することとされています(法人税法62条の9)。
株主の課税については、株式移転完全親法人の株式以外の資産(反対株主の買取請求に基づく対価を除きます)が交付されなかった株式移転であれば、内国法人である株主については旧株の株式移転直前の帳簿価額が譲渡対価の額とされるため譲渡損益は生じず(法人税法61条の2第11項)、居住者である個人株主については、株式移転完全親法人の株式の交付を受けた場合に旧株の譲渡がなかったものとみなされます(所得税法57条の4第2項)。
※適格株式移転や株主課税の取扱いは、個別の資本関係・要件充足状況等によって異なるため、実行にあたっては税理士等の専門家にご確認ください。
株式移転は、既存の会社の上に新たに持株会社を設立し、グループをホールディングス体制へ移行させる手法として利用されます。単独株式移転では、既存の株主が原則として保有株式数に応じて新設された持株会社の株式の割当てを受けるため、株主構成を維持したまま持株会社体制を構築できる点に特徴があります。株式移転完全子会社の法人格はそのまま維持されるため、事業に必要な許認可や取引契約を移し替える必要は生じにくい一方、契約上のチェンジ・オブ・コントロール条項や、許認可に関する個別法上の届出等が必要となる場合があります。
共同株式移転は、複数の会社が共同で持株会社を設立し、経営統合を行う場面で用いられます。合併と異なり、各社の法人格を存続させたまま統合できる点が特徴です。株式移転は買い手が現金を支払って他社を買収する手法ではないため、第三者の会社を買収する場面では株式譲渡や株式交換などが、事業部門を子会社として切り出す場面では会社分割が検討されます。
