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M&A用語解説
偶発債務(ぐうはつさいむ)
偶発債務とは、債務の保証、係争事件に係る賠償義務その他現実に発生していない債務で、将来において事業の負担となる可能性のあるものをいいます(財務諸表等規則(財務諸表等の用語、様式及び作成方法に関する規則)58条)。具体例としては、他社の借入れ等に対する保証債務、受取手形を割引・裏書譲渡した場合の遡求義務(手形遡求債務)、係争中の事件に係る損害賠償義務などが挙げられます(企業会計原則第三・一C、会社計算規則103条5号)。
重要な偶発債務は、貸借対照表に負債として計上されていない場合でも、適用される会計・開示のルールに応じて、注記による開示の対象となります。企業会計原則は、受取手形の割引高・裏書譲渡高、保証債務等の偶発債務を貸借対照表に注記しなければならないとしています(企業会計原則第三・一C)。金融商品取引法に基づいて提出する財務諸表について定めた財務諸表等規則も、偶発債務がある場合にはその内容及び金額の注記を求めています(財務諸表等規則58条。重要性の乏しいものは省略可)。会社法上の計算書類でも、保証債務、手形遡求債務、重要な係争事件に係る損害賠償義務等(負債の部に計上したものを除く)があるときは、その内容及び金額を注記するものとされています(会社計算規則103条5号)。ただし、会計監査人設置会社以外の株式会社のうち公開会社でないものの個別注記表では、この「貸借対照表等に関する注記」の表示は要しないとされています(会社計算規則98条2項1号)。
また、将来の特定の費用又は損失であって、その発生が当期以前の事象に起因し、発生の可能性が高く、かつ、その金額を合理的に見積ることができる場合には引当金を計上するものとされ、その例として債務保証損失引当金や損害補償損失引当金が挙げられています。一方、発生の可能性の低い偶発事象に係る費用又は損失については、引当金を計上することはできません(企業会計原則注解18)。
※個別の会計処理や開示については、公認会計士・税理士等の専門家にご確認ください。
中小企業庁の「中小M&Aガイドライン(第3版)」(令和6年8月・PDF)は、偶発債務を「紛争に関する損害賠償債務等、現時点では未発生だが将来的に発生し得る」ものと説明したうえで、株式譲渡では譲り渡し側の法人格に変動がないため、簿外債務・偶発債務のリスクが比較的高くなりやすく、より詳細なデューデリジェンス(DD)が実施される傾向にあるとしています(中小M&Aガイドライン48頁)。これに対し、事業譲渡は譲渡の対象となる財産を選択でき、譲り渡し側の法人格から切り離すことができるため、簿外債務・偶発債務のリスクを比較的遮断しやすいとされています(中小M&Aガイドライン48~49頁)。
中小M&Aガイドラインは、株式譲渡スキームを前提とする場合には、財務デューデリジェンスで簿外債務・偶発債務も含めた全般的な調査を要することが多いとし、財務DDの結果、多大な簿外債務・偶発債務が発見された場合には、当初予定していた株式譲渡スキームから事業譲渡スキームへの変更を余儀なくされることもあるとしています(中小M&Aガイドライン114頁)。会社計算規則上、会計監査人を置かない非公開会社の個別注記表では「貸借対照表等に関する注記」の表示を要しないため、決算書に偶発債務の注記がないことだけでは、偶発債務がないとはいえません。保証や係争の有無は、DDを通じて確認することが重要です。
DDで把握したリスクを踏まえ、最終契約書に定める内容・条件(譲渡額、表明保証、補償等)を調整することで、M&A成立後のトラブルの防止につながるとされています(中小M&Aガイドライン47~48頁)。
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