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M&A用語解説
ノーショップ条項(のーしょっぷじょうこう)
ノーショップ条項とは、M&Aの基本合意書や最終契約書において、売り手側による他の買収候補者への勧誘や交渉などを一定の範囲で制限する条項をいいます。具体的な禁止範囲は、個々の契約内容によって異なります。
買い手側にとっては、競合する買収候補者の介入リスクを抑え、買収価格の上昇や交渉の長期化を抑制できるという意味があります。一方、売り手側にとっても、独占的な交渉権を与えた相手を最も望ましい売却先と判断している場合には、その相手との交渉に集中し、迅速に取引を成立させやすくなるという利点があります。
類似の条項に「ノートーク条項」があります。一般に、ノーショップ条項は売り手側が自ら第三者に買収を持ちかける「能動的な勧誘」を禁止するのに対し、ノートーク条項は第三者から打診があった場合にこれに応じることまで禁止する、より広い範囲を対象とする条項とされます。もっとも、実際の契約における両条項の禁止範囲や、フィデューシャリーアウト条項(後述)による例外の設け方は個々の契約交渉によって異なり、必ずしも一律に線引きできるものではない点に留意が必要です。
M&Aの実務、特に米国の上場会社M&A実務などでは、ノーショップ条項の例外・修正として、契約締結後の一定期間(一般に30日~60日程度とされることがあります)に対象会社が自ら他の買収候補者を積極的に探索できる「ゴーショップ条項」や、自ら積極的な勧誘は行わないものの、契約締結後に第三者から自発的な買収提案があった場合に一定の条件のもとで情報提供や交渉を行う余地を残す「ウィンドウショップ条項」が設けられることがあります。ノーショップ条項自体は、合意したM&A取引の実現可能性を高めるための取引保護条項(Deal Protection Provisions)の一つに位置づけられます。
ノーショップ条項に違反し、売り手側が自ら第三者への勧誘等を行った場合には、債務不履行に基づく損害賠償責任が生じ得ます。これとは別に、契約であらかじめ合意された解約金(ブレイクアップフィー)は、必ずしも条項違反があった場合にのみ発生するものではなく、より有利な対抗提案を理由に売り手側が契約を解除するなど、契約上定められた一定の解除事由が生じた場合に支払われるよう設計されることが一般的です。
また、株式会社の取締役は会社に対して善管注意義務を負っています(会社法330条、民法644条)。特に対象会社が上場会社である場合には、ノーショップ条項をはじめとする取引保護条項が株主共同の利益を過度に制約する内容になっていないか、取締役の善管注意義務の観点から留意が必要とされています。実際、海外、特に米国のM&A実務では、より有利な対抗提案が現れた場合に、取締役が自らの受託者責任(fiduciary duties。日本法上の善管注意義務・忠実義務に相当するとされる米国の法概念)を理由として、契約の解除だけでなく、対抗提案者との情報共有・交渉や取締役会としての推奨内容の変更を行うことを認める「フィデューシャリーアウト条項」を、ノーショップ条項・ノートーク条項の例外としてあわせて定めることが一般的です。
中小企業庁「中小M&Aガイドライン」では、譲り渡し側が特定の譲り受け側に絞って交渉を行うことを決定した際に取り交わす基本合意書について、譲り受け側に独占的交渉権を認める内容を盛り込み、法的拘束力を持たせることが通常であるとされています。この独占的交渉権も、ノーショップ条項と同様に、交渉を特定の相手に集中させ、取引の実現可能性を高める機能を持つものといえます。もっとも、上場会社が関わるM&Aや、入札方式など複数の買収候補者が競合しうる案件では、こうした取引保護条項の設計が特に重要な意味を持つと考えられます。
