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M&A用語解説
経営権(けいえいけん)
経営権とは、会社の経営を実際に主導できる地位や権限を指す、実務上の呼称です。会社法上定義された用語ではなく、独立した権利として会社法に定められているものでもありません。M&Aでは、株式の取得などによって会社の経営の方向性を決める力(経営の主導権)を得ることを、「経営権の取得」と呼ぶことがあります。
株式会社では、株主は株主総会における議決権の行使を通じて、会社の意思決定に関与します。取締役は株主総会の決議によって選任され(会社法329条1項)、いつでも、株主総会の決議によって解任することができます(会社法339条1項)。これらの決議は、特別決議が必要となる解任などを除き、原則として、議決権を行使することができる株主の議決権の過半数を有する株主が出席し、出席した当該株主の議決権の過半数をもって行います。ただし、定款により、定足数を3分の1以上の割合まで引き下げ、又は決議に必要な割合を過半数より高く定めることができます(会社法341条)。
定款に別段の定めがない通常の場合、議決権の過半数(50%超)を有する株主は、株主総会に出席して賛成すれば、他の株主の賛否にかかわらず、通常の取締役の選任・解任に関する決議を成立させることができます。ただし、監査等委員である取締役の解任や、累積投票により選任された取締役の解任など、特別決議が必要となる場合もあります(会社法309条2項7号)。また、2人以上の取締役を選任する場合(監査等委員会設置会社では、監査等委員である取締役又はそれ以外の取締役をそれぞれ2人以上選任する場合)には、定款に別段の定めがあるときを除き、その選任について議決権を行使することができる株主は、累積投票による選任を請求することができ(会社法342条1項)、この場合は、議決権の過半数を有していても、希望する取締役を全員選任できるとは限りません。このため、M&Aでは、議決権の過半数の取得が、経営権の取得の一つの目安として扱われます。
指名委員会等設置会社を除く取締役会設置会社では、取締役会が代表取締役の選定及び解職を行います(会社法362条2項3号、監査等委員会設置会社では会社法399条の13第1項3号)。このため、取締役の選任・解任を主導できる株主は、取締役会を通じて、代表取締役の選定・解職にも影響を及ぼし得ます。
一方、特別決議は、定款に別段の定めがない場合、議決権を行使することができる株主の議決権の過半数を有する株主が出席し、出席した当該株主の議決権の3分の2以上に当たる多数をもって行います(会社法309条2項)。特別決議が必要な事項は、会社法309条2項各号に定められています。なお、事項によっては、同条3項・4項に定める特殊決議など、別の決議要件が適用されます。以下の「3分の2」「3分の1」は、いずれも、当該議案について議決権を行使することができる議決権の総数に対する、その株主の保有割合を指します。3分の2以上の議決権を有する株主は、株主総会に出席して賛成すれば特別決議を単独で成立させることができ、3分の1を超える議決権を有する株主は、出席して反対すれば特別決議の成立を阻止することができます。ただし、定款で決議に必要な割合を3分の2より高く定めたり、一定数以上の株主の賛成を要するなどの要件を加えたりしている場合には、3分の2以上の議決権を有していても、特別決議を単独で成立させることができないことがあります。
株式の取得によるM&Aでは、取得する議決権の割合によって、株主総会で単独で決められる範囲が異なります。定款に別段の定めがない通常の場合、譲り受け側が議決権の過半数を取得すれば通常の取締役の選任・解任に関する決議を単独で成立させることができ、3分の2以上を取得すれば特別決議が必要な事項も単独で成立させることができます。他方、議決権の3分の1を超える株主が残る場合、その株主は特別決議の成立を阻止することができます。このため、取得後にどのような決議を単独で成立させる必要があるかを踏まえて、取得する議決権の割合を検討する必要があります。議決権の過半数を取得しても、少数株主は残り得ます。
議決権の割合だけで経営権が決まるとは限りません。会社法は、議決権制限株式や、株主総会等の決議事項について種類株主総会の決議を必要とする株式など、内容の異なる種類株式を認めています(会社法108条1項3号・8号)。また、定款の定めや株主間契約の内容、役員の構成によっても、実際の主導権は左右されます。このため、経営権の取得を検討する際は、議決権の割合に加え、これらの定めの有無を確認する必要があります。
なお、「経営権」は会社を経営する主導権を指す用語であり、企業の超過収益力等に由来する無形の財産的価値を指す営業権とは異なります。
