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M&A用語解説

資本コスト(しほんこすと/Cost of Capital)

資本コストとは、企業が事業に必要な資金を調達する際に、株主や債権者などの資金提供者が、投資のリスクに応じて求める収益率をいいます。伊藤レポートは、リスクに見合う最低限の期待と失望の分水嶺が資本コストであるとしています(経済産業省「「持続的成長への競争力とインセンティブ~企業と投資家の望ましい関係構築~」プロジェクト(伊藤レポート)最終報告書」(PDF)本文5頁(PDF上7頁))。また、エコノミック・プロフィットの考え方では、事業に投じた資産の機会費用は加重平均資本コスト(WACC)で表されるとされています(日本公認会計士協会「企業価値評価ガイドライン(平成25年7月3日改正)」(PDF)本文63頁(PDF上69頁))。

資本コストは、資金の出し手に応じて、債権者が求める負債コストと、株主が求める株主資本コストに分けられます。企業全体の資本コストは、株主資本コスト(ke)と税引後の負債コスト(kd×(1-τ))を、株主資本価値(E)と負債価値(D)で加重平均して求めます。これがWACCで、税引後の要求収益率です(企業価値評価ガイドライン本文32~33頁(PDF上38~39頁))。

WACC=E/(D+E)×ke+D/(D+E)×kd×(1-τ)

ここで、τは事業活動による課税所得に対する限界税率で、実効税率とする場合が多いとされています(企業価値評価ガイドライン本文32頁(PDF上38頁))。株主資本コストは、実務では資本資産価格モデル(CAPM)を援用して推定する場合が多く、次の式で表されます(企業価値評価ガイドライン本文49頁(PDF上55頁))。

ke=rf+β×(rm-rf)

ここで、rfはリスクフリーレート(安全利子率)、rmは市場収益率の期待値、βは個別株式の利回りが株式市場全体の利回りに連動する度合いです。推定では、安全利子率に長期国債利回り、市場リスクプレミアム(rm-rf)に過去の株式市場の収益率と長期国債利回りの差、βに株価と株価指数のデータを使うのが一般的です。収益率の計算期間、データの収集期間(3年から5年が多い)、株価指数の種類には選択の余地があり、合意された方法があるわけではありません。非上場会社では、類似した上場企業のβを利用するなどの工夫が必要とされています(企業価値評価ガイドライン本文50頁(PDF上56頁))。

企業価値評価では、DCF法により、将来の営業フリーキャッシュフローの期待値をWACCで割り引いて事業価値を求めます。株主に帰属するフリーキャッシュフローを割り引く場合は、株主資本コストを使います(企業価値評価ガイドライン本文32~33頁(PDF上38~39頁))。資本コストは将来のキャッシュ・フローを現在価値に直す割引率になるため、その設定によって算定される事業価値は大きく変わります。他の条件が同じなら、割引率を低くすると価値は大きく、高くすると小さく算定されます。

※個別の企業価値評価や資本コストの設定については、公認会計士・M&Aアドバイザー等の専門家にご確認ください。

なぜM&Aで重要か

WACCを割引率として用いるDCF法は、企業価値評価で広く利用されている方法です(企業価値評価ガイドライン本文33頁(PDF上39頁))。M&Aで対象事業の価値を評価する際も、買収価格が妥当かどうかの判断は、資本コストの置き方に左右されます。資本コストを低く見積もると、採算に見合わない事業を高く評価するおそれがあり、高く見積もると、本来価値のある案件を見送るおそれがあります。買収後に資本構成が変わる見込みがある場合は、財務リスクの変化によって株主資本コストが変わるため、その反映が必要とされています(企業価値評価ガイドライン本文38頁(PDF上44頁))。

伊藤レポートは、中期的に資本コストを上回るROEを上げ続けることが、企業価値を生み出すための大原則であるとしています(伊藤レポート本文6頁(PDF上8頁))。事業を買う場合も売る場合も、その事業が資本コストを上回るリターンを見込めるかは、判断の物差しの一つになります。伊藤レポートは、事業を売却する判断のハードルの高さが資本効率を改善する制約となり得るとの見解も紹介しています(伊藤レポート本文35頁(PDF上37頁))。

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この用語のカテゴリー

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監修者情報
監修者 佐藤信(IRI M&Aコンサルティング株式会社 取締役)
監修

佐藤 信(さとう あきお)

M&A・事業承継の専門家|IRI M&Aコンサルティング株式会社

IRI M&Aコンサルティング株式会社 取締役。M&A・事業承継に関する実務経験をもとに、中小企業の譲渡・譲受、事業承継、企業価値評価などの支援に従事。本サイトでは、専門用語を初めて学ぶ方にも理解しやすい表現を心掛け、実務で活用できる情報の監修を担当しています。

投稿者: IRI M&Aコンサルティング編集部 | 2016年10月21日 | 最終更新日: 2026年10月20日
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