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M&A用語解説

経営判断の原則(けいえいはんだんのげんそく/Business Judgment Rule)

経営判断の原則とは、取締役が行った経営上の判断について、その決定過程および内容に著しく不合理な点がない限り、善管注意義務違反を問われないとする考え方をいう。取締役の経営判断には、将来予測にわたる専門的・裁量的な要素が不可避的に伴うため、結果として会社に損害が生じたという一事をもって直ちに義務違反を認定すると、取締役の萎縮を招き、かえって会社の利益を損なうおそれがある。そこで裁判実務では、取締役の経営判断そのものの当否を裁判所が事後的・後知恵的に審査するのではなく、判断に至る過程と内容の合理性の有無を審査するという枠組みが定着している。

会社と取締役との関係は委任に関する規定に従うものとされ(会社法第330条)、受任者は委任の本旨に従い善良な管理者の注意をもって委任事務を処理する義務(善管注意義務)を負う(民法第644条)。取締役の経営判断が善管注意義務に違反するかどうかを判断する際の実務上の基準が、経営判断の原則である。

裁判例上、経営判断の原則の審査は、大きく次の2点を中心要素として行われる。

①経営判断の前提となった事実認識の過程(情報収集とその分析・検討)に、不注意な誤りがなかったか
②その事実認識に基づく意思決定の推論過程および内容に、著しい不合理な点がなかったか

経営判断に対する裁判所の審査の在り方を示した代表的な裁判例として、完全子会社化に伴う株式取得価格の決定が争われた株主代表訴訟における最高裁判所平成22年7月15日判決(第一小法廷)がある。同判決は、株式取得価格の決定について「その決定の過程、内容に著しく不合理な点がない限り、取締役としての善管注意義務に違反するものではない」とし、決定過程と決定内容の両面から審査したうえで取締役の判断を是認した。

※経営判断の原則は、事後的な結果(損害の発生等)のみをもって直ちに取締役の責任を問わないとする考え方であり、あらゆる経営判断を無条件に免責する制度ではない。法令違反行為や、情報収集・検討の過程に不注意な誤りがある判断、意思決定の過程・内容に著しく不合理な点がある判断は、経営判断の原則によっては保護されない。

なぜM&Aで重要か

M&Aにおいて取締役会が行う買収の可否、買収価格・対価の妥当性、スキームの選択、デュー・ディリジェンスの範囲設定等には、将来予測を伴う経営上の判断が多く含まれ、その善管注意義務違反の有無を判断するにあたっては、経営判断の原則の考え方が重要となる。買収後に対象事業の業績が想定を下回った場合や、売却価格が結果的に安すぎた・買収価格が結果的に高すぎたと評価される場合であっても、判断当時における情報収集・検討過程および意思決定の内容に著しい不合理な点がなければ、取締役が直ちに善管注意義務違反を問われるわけではない。

そのため実務上は、取締役会がM&Aの意思決定を行うに際して、財務・法務デューデリジェンスの実施、外部専門家によるフェアネスオピニオンや株式価値算定書の取得、複数の算定手法・前提条件の比較検討、取締役会における審議過程の議事録化等を通じて、判断過程の合理性を裏付ける記録を残しておくことが、事後的な株主代表訴訟等のリスクに備えるうえで重要となる。

この用語のカテゴリー

企業経営

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監修者情報
監修者 佐藤信(IRI M&Aコンサルティング株式会社 取締役)
監修

佐藤 信(さとう あきお)

M&A・事業承継の専門家|IRI M&Aコンサルティング株式会社

IRI M&Aコンサルティング株式会社 取締役。M&A・事業承継に関する実務経験をもとに、中小企業の譲渡・譲受、事業承継、企業価値評価などの支援に従事。本サイトでは、専門用語を初めて学ぶ方にも理解しやすい表現を心掛け、実務で活用できる情報の監修を担当しています。

投稿者: IRI M&Aコンサルティング編集部 | 2016年10月7日 | 最終更新日: 2026年10月16日
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