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M&A用語解説

物的分割(ぶってきぶんかつ)

物的分割とは、会社分割の類型の一つで、分割会社が事業に関して有する権利義務を新設会社または既存の承継会社に承継させ、その対価(新設会社・承継会社の株式等)を分割会社自身が受け取る分割方法をいいます(会社法2条29号・30号、会社法758条4号、会社法763条1項6号・8号)。法人税法上の「分社型分割」にほぼ対応する概念で、対価を分割会社の株主に交付する「人的分割(分割型分割)」と対比されます。法人税法は、分割法人が受け取る分割対価資産が分割の日に株主等へ交付されない分割(無対価分割を除く)を分社型分割とし、無対価分割については分割直前における分割法人と分割承継法人との間の株式の保有関係により、分割型分割と分社型分割に区分しています(法人税法2条12号の9・12号の10)。そのため、物的分割・人的分割と法人税法上の分社型分割・分割型分割は、完全に一致する概念ではありません。

なお、「物的分割」「人的分割」は法令上の用語ではなく、平成18年(2006年)施行の会社法にも人的分割という独立の類型は設けられていません。会社法の下では、分割契約・分割計画において、効力発生日(新設分割では新設会社の成立日)に分割会社が取得した承継会社・新設会社の株式のみを対価とする株式の取得、または当該株式のみを配当財産とする剰余金の配当により、その株式を株主に交付する旨を定めることで(会社法758条8号、会社法763条1項12号)、物的分割と組み合わせて人的分割と同様の効果を実現します。この場合の株式の取得または剰余金の配当については、準備金の計上に関する会社法445条4項、会社法458条および会社法第2編第5章第6節(剰余金の配当等に関する責任)の規定を適用しない特則が置かれています(会社法792条、会社法812条)。

なぜM&Aで重要か

M&Aの実務では、対象会社が営む特定の事業だけを切り出して譲渡する手法として物的分割が用いられます。物的分割で事業を承継会社(典型的には子会社)へ切り出したうえで、分割会社が受け取ったその会社の株式を第三者に譲渡する「会社分割+株式譲渡」のスキームは、分割契約・分割計画の定めに従って権利義務が承継会社・設立会社に承継されるため(会社法759条1項、会社法764条1項)、一般に、資産や契約ごとに個別の移転手続を要する事業譲渡と比べて手続面のメリットがあります。ただし、取引先との契約にチェンジオブコントロール条項や会社分割による承継を制限する定めがある場合は相手方の同意等が必要になることがあり、許認可についても、その種類により承継の可否や必要な手続が異なります。また、分割会社の従業員との労働契約については、会社分割に伴う労働契約の承継等に関する法律(労働契約承継法)に、労働者への書面通知、承継される事業に主として従事する労働者の労働契約の承継、労働者の異議申出などの定めがあり、分割の手続の中で別途の対応が必要です(労働契約承継法2条〜5条)。

一方で、分割対価をどの主体が受け取るか(分社型分割か分割型分割か)によって、法人税法上の区分(法人税法2条12号の9・12号の10)や適格分割(法人税法2条12号の11)に該当するか否かの判定、課税関係が異なります。適格分割となるには、分割対価資産として分割承継法人(または分割承継親法人)の株式以外の資産が交付されないことに加え、分割当事者間の資本関係等に応じた要件を満たす必要があります。例えば、完全支配関係・支配関係がある法人間の分割では、分割後も資本関係の態様に応じた所定の完全支配関係・支配関係が継続する見込みが、共同事業を行うための分社型分割では、交付を受けた分割承継法人(または分割承継親法人)の株式を分割法人が継続して保有する見込みが、それぞれ要件の一つとされています(法人税法施行令4条の3第6項〜第8項)。そのため、分割後に承継会社の株式を第三者へ譲渡する予定がある場合は、適格分割の判定に影響し得ます。スキーム設計にあたっては税理士・弁護士等の専門家への確認が不可欠です。

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監修者情報
監修者 佐藤信(IRI M&Aコンサルティング株式会社 取締役)
監修

佐藤 信(さとう あきお)

M&A・事業承継の専門家|IRI M&Aコンサルティング株式会社

IRI M&Aコンサルティング株式会社 取締役。M&A・事業承継に関する実務経験をもとに、中小企業の譲渡・譲受、事業承継、企業価値評価などの支援に従事。本サイトでは、専門用語を初めて学ぶ方にも理解しやすい表現を心掛け、実務で活用できる情報の監修を担当しています。

投稿者: IRI M&Aコンサルティング編集部 | 2019年8月29日 | 最終更新日: 2026年10月20日
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