訪問介護事業は、介護ビジネスの中でも最も参入しやすく、M&A市場でも流通が多い領域です。
一方で、「人材依存」「許認可維持」「コンプライアンス」の3点が極めて重要であり、理解不足のまま取引を進めると大きなリスクを伴います。
本記事では、訪問介護のM&Aにおける基本構造から実務上のポイントまでを体系的に解説します。

訪問介護とは(ビジネスの本質)
訪問介護とは、ヘルパーが利用者の自宅を訪問し、身体介護(入浴・排泄など)や生活援助(掃除・買物など)を提供するサービスです。
制度上は介護保険法第8条第2項に定義されており、介護保険報酬によって収益が発生します。
このビジネスの本質はシンプルで、
👉「人(ヘルパー)」×「稼働時間」=売上
となる典型的な労働集約型モデルです。
訪問介護M&Aの最大ポイントは「許認可」

訪問介護事業を行うには、都道府県から指定居宅サービス事業者の指定を受ける必要があります。
根拠は介護保険法第41条です。
この指定がなければ、介護報酬は一切請求できません。
つまり、M&Aにおいては「この指定が維持できるか」が最重要論点となります。
M&Aスキームと許認可の関係
訪問介護M&Aでは、スキーム選択が極めて重要です。
■株式譲渡
👉許認可は維持される
- 法人が変わらないため指定は継続
- 実務上は最も一般的
■事業譲渡
👉 許認可は原則失効
- 新法人で再指定が必要
- 数ヶ月の空白期間が発生
■結論
👉 訪問介護は株式譲渡が基本
人員要件(最大リスク)
訪問介護は許認可だけでなく「人員基準」が非常に重要です。
代表例:
- 管理者
- サービス提供責任者(サ責)
これらは法令・基準省令により必須とされており、欠けると指定取消のリスクがあります。
根拠
- 介護保険法第74条
- 介護保険法第70条
M&Aでよくある失敗
① 人材が退職する
👉 買収後にサ責が辞めると即運営困難
② 名義貸し
👉 実態と異なる人員配置は重大違反
③ 架空請求・不正請求
👉 過去の不正が後から発覚するケース
👉 結論:「人」と「コンプラ」が最大リスク
デューデリジェンスのポイント
訪問介護M&Aでは、以下の確認が必須です。
① 人員の実在性
- 雇用契約書
- 出勤実態
- 常勤要件
② 売上の健全性
- 利用者数
- 稼働率
- 介護報酬請求内容
③ 行政リスク
- 指導履歴
- 監査履歴
- 返還請求の有無
④ 許認可の状態
- 指定番号
- 更新期限
デューデリジェンスとは、企業の財務・法務リスクを調査する工程です。
→ デューデリジェンスの流れを見る
価格評価の考え方
訪問介護は設備資産がほぼないため、評価は以下で決まります。

- 利用者数
- 稼働率
- スタッフ数
👉 EBITDA倍率よりも
👉 「安定収益 × 人材維持力」
成功する買収のポイント
① キーマンの引き留め
- サ責・管理者の継続が最優先
② 給与・待遇の維持
👉 ヘルパーは流動性が高い
③ 小規模案件の積み上げ
👉 スケール戦略が有効
まとめ
訪問介護M&Aの本質は非常に明確です。
- 👉 許認可は法人に紐づく
- 👉 人材がすべて
- 👉 コンプライアンスが生命線
したがって結論は
👉 株式譲渡で人材を維持できるかがすべて
訪問介護は参入しやすい一方で、運営力が問われるビジネスです。
M&Aにおいては「買った後に運営できるか」という視点で判断することが成功の鍵となります。