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M&A用語解説

ADR(えーでぃーあーる/American Depositary Receipt)

ADR(American Depositary Receipt、米国預託証券)とは、米国の預託銀行が、米国外の企業の株式(原株)を保管したうえで、その株式に対応して米国内で発行する、譲渡可能な証書をいう。米国証券取引委員会(SEC)の投資家向けブルテン「Investor Bulletin: American Depositary Receipts」(2012年8月17日)によれば、ADRは、米国外の企業の株式に対する持分を表す米国預託株式(ADS)の所有権を証する証書であり、市場ではADRとADSが同じ意味で用いられることも多い。

ADRは、発行会社または原株を保有する投資家が、原株を本国で預託銀行またはその保管機関に預けると、預託銀行が米国でADRを発行する形で作られる。ADRは米国の取引所や店頭市場で売買でき、返還すれば原株の交付を受けることもできる。ADRは米ドルで取引され、米国の決済システムで決済されるため、保有者は外貨で取引する必要がない。1ADRが表す原株の数は、1株のほか、1株の一部や複数株の場合があり、この比率によってADRの価格は米国の株価水準に近づけられる。預託銀行は、預託契約に基づき、保管や配当の支払などの対価として保有者から手数料を徴収することがあり、配当金から差し引く方法が一般的である(SEC投資家向けブルテン)。

ADRには、発行会社が預託銀行と直接契約し、記録管理、株主への通知の転送、配当の支払などを手配するスポンサー付きADRと、発行会社の協力なしに、証券会社などの主導で設けられる場合があるスポンサーなしADRがある。ADRは常にSECにForm F-6の登録届出書で登録されるが、その開示は預託契約の内容に関するもので、発行会社の情報は含まれない(SEC投資家向けブルテン)。

実務上、ADRのプログラムは3つのレベルに分類される。レベル1は米国での取引の場を確立するが資金調達には使えず、スポンサーなしにできるのはこのレベルのみで、店頭市場でのみ取引される。レベル2は全国的な証券取引所での取引の場を確立するが資金調達には使えず、発行会社はForm 20-Fの年次報告書をSECに提出する。レベル3は取引の場の確立に加えて資金調達にも使え、Form F-1、F-3またはF-4の登録届出書とForm 20-Fの年次報告書の提出が必要となる(SEC投資家向けブルテン)。

※個別の事案については、米国法に詳しい弁護士等の専門家にご確認ください。

なぜM&Aで重要か

外国企業の株式がADRとして米国で取引されている場合、その企業の情報の入手先はレベルによって異なる。レベル1ではSECのEDGAR(電子開示システム)に発行会社の情報はなく、発行会社のウェブサイトなどで確認することになる。また、外国企業は、Form 20-Fの年次報告書を除き、一般に本国で求められる開示を行えば足り、その開示は米国の公開会社ほど詳細または比較可能とは限らない(SEC投資家向けブルテン)。そのため、クロスボーダーのM&Aや外国企業への投資では、ADRのレベルを確認したうえで、開示の範囲と入手先を把握することが実務上考えられる。

外国企業の株式を対象とする公開買付けでは、米国の規制の適用が問題となることがある。SECの規則は、対象会社が外国民間発行者であり、米国居住の株主の保有割合が対象株式の10%以下(Tier I)の場合は米国の公開買付規制の一部の適用を免除し、40%以下(Tier II)の場合は一部の規定を緩和する。この保有割合の算定では、ADSが表す原株も、発行済株式数と米国居住株主の保有数の双方に含める(米国連邦規則集 17 CFR 240.14d-1(c)・(d)およびその指示2)。なお、これらの免除・緩和の適用には、別途定める要件を満たす必要がある。

日本では、ADRのような預託証券(預託を受けた証券の発行国以外の国で発行され、その証券に係る権利を表示する証券・証書)が、金融商品取引法第2条第1項第20号により有価証券とされる。このうち株券などに係る権利を表示するものは、公開買付け(TOB)の規制の対象となる「株券等」に含まれる(金融商品取引法施行令第6条第1項第5号)。

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監修者情報
監修者 佐藤信(IRI M&Aコンサルティング株式会社 取締役)
監修

佐藤 信(さとう あきお)

M&A・事業承継の専門家|IRI M&Aコンサルティング株式会社

IRI M&Aコンサルティング株式会社 取締役。M&A・事業承継に関する実務経験をもとに、中小企業の譲渡・譲受、事業承継、企業価値評価などの支援に従事。本サイトでは、専門用語を初めて学ぶ方にも理解しやすい表現を心掛け、実務で活用できる情報の監修を担当しています。

投稿者: IRI M&Aコンサルティング編集部 | 2026年10月6日 | 最終更新日: 2026年10月16日
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