
📋 この記事でわかること
- 酒蔵・ワイナリー・クラフトビール・酒販店のM&Aで必ず押さえておきたい酒類免許の基礎知識
- 酒類製造免許・酒類販売業免許の種類と、それぞれの対象業種
- 株式譲渡と事業譲渡で酒類免許の取扱いがどう変わるか
- 買い手が重視する製造免許・酒税申告・製造数量・品質管理のチェックポイント
- 清酒・焼酎・ワイン・ビールなど品目別の事業者数から見るM&A対象市場の規模感
目次
酒蔵・ワイナリー・酒販店のM&Aが増えている理由
結論:後継者不足に加え、免許制度による参入障壁の高さ、設備老朽化、輸出・EC需要の拡大という要因が重なり、「廃業」ではなく「M&A」を選ぶ酒類事業者が増えています。

①後継者不足
清酒蔵・焼酎蔵・ワイナリーなど伝統的な酒類製造業では、家族内に後継者がおらず、従業員承継も進まないケースが増えています。利益が出ていても廃業を検討する事業者は少なくありません。
②免許制度による新規参入の難しさ
酒類製造免許は酒税法に基づく許可制で、新規取得のハードルが高いことで知られています。既存の免許を持つ事業者を株式譲渡で取得することは、新規参入を目指す買い手にとって現実的な選択肢になります。
③設備投資・老朽化対応
醸造設備・蒸留設備・貯蔵タンクなどは高額かつ更新サイクルが長く、設備更新の負担を機に売却を検討する経営者も増えています。
④輸出・EC需要の拡大
日本酒・ウイスキー・クラフトビールなどの海外需要拡大や、通信販売酒類小売業免許を活用したEC展開の広がりを背景に、販路拡大を狙う買い手からの引き合いも増加しています。
酒類に関する主な許認可
結論:酒類事業のM&Aでは「酒類製造免許」と「酒類販売業免許」という2つの許認可の扱いが、スキーム選択を左右する最重要ポイントです。
①酒類製造免許
酒を製造するために必要な免許です。対象となる主な業種は次のとおりです。
- ワイナリー
- 日本酒蔵
- 焼酎メーカー
- ウイスキー蒸留所
- クラフトビールメーカー
- リキュール製造会社
- スピリッツ製造会社
製造免許は酒税法に基づき、税務署長から免許を受けます。
②酒類販売業免許
酒類を販売する場合に必要な免許です。例えば次のような事業者が対象になります。
- 酒販店
- 酒類卸売会社
- ECショップ
- ワイナリー直売所
- 酒類輸入会社
販売方法によって必要な免許が異なります。
酒類製造免許・販売免許の種類
結論:免許は品目や販売方法によって細かく区分されており、対象事業がどの免許に該当するかを正確に把握することがM&Aの出発点になります。
| 製造免許の種類 | 主な対象 |
|---|---|
| 果実酒製造免許 | ワイン |
| 清酒製造免許 | 日本酒 |
| ビール製造免許 | ビール |
| 発泡酒製造免許 | 発泡酒・一部クラフトビール |
| 焼酎製造免許 | 単式・連続式蒸留焼酎 |
| ウイスキー製造免許 | ウイスキー |
| スピリッツ製造免許 | ジン等 |
| リキュール製造免許 | 梅酒等 |
| その他の醸造酒製造免許 | 上記に該当しない醸造酒 |
| 販売免許の種類 | 概要 |
|---|---|
| 一般酒類小売業免許 | 店頭での小売販売 |
| 通信販売酒類小売業免許 | ECなど通信販売限定 |
| 酒類卸売業免許 | 卸売全般 |
| 輸出入酒類卸売業免許 | 輸出入取引専門 |
| 全酒類卸売業免許 | 全酒類区分の卸売 |
| 自己商標酒類卸売業免許 | 自社ブランド酒類の卸売 |
買い手企業から見た酒類事業の魅力
結論:容易には新規取得できない酒類免許、地域・ブランドに根付いた顧客基盤、輸出余地という「すぐには作れない資産」が買い手にとっての最大の魅力です。

- 取得ハードルの高い酒類製造免許をそのまま確保できる
- 既存ブランド・地域顧客をそのまま獲得できる
- 輸出・EC展開への足がかりになる
- 安定した卸売・小売チャネルを引き継げる
- 他の酒類事業とのポートフォリオ相乗効果
酒類事業のM&A相場
結論:酒類事業の評価も一般的なM&Aと同様、「営業利益倍率」「EBITDA倍率」「純資産+営業権」の考え方を組み合わせて行われます。
| 評価方法 | 目安・考え方 |
|---|---|
| 営業利益ベース | 営業利益の3〜5倍程度が目安 |
| EBITDA評価 | 設備投資負担が大きい業界のためEBITDA×3〜6倍で評価されるケースも |
| 純資産加算方式 | 純資産(現預金・土地・建物・醸造設備等)+営業権 |
営業利益ベース
営業利益の3〜5倍程度が一つの目安です。
EBITDA評価
醸造設備・貯蔵設備など設備投資が大きい業界のため、EBITDA×3〜6倍で評価されるケースも多くあります。
純資産加算方式
以下を加算して評価します。
- 現預金
- 土地・建物
- 醸造・蒸留設備
- 貯蔵タンク・熟成樽
- 在庫(仕掛品・製品在庫)
その上で営業権(のれん)が加算されます。
M&Aで最も重要なポイント:株式譲渡と事業譲渡の違い
結論:酒類事業のM&Aでは、株式譲渡なら免許が原則継続する一方、事業譲渡では免許を原則引き継げないため、スキーム選択が事業継続の可否を左右します。
株式譲渡の場合
会社そのものが存続するため、基本的には酒類免許も継続されます。そのためワイナリーや酒蔵のM&Aでは株式譲渡が多く採用されます。
ただし、役員変更・本店移転・名称変更などの場合には税務署への届出が必要になることがあります。
事業譲渡の場合
ここが最も重要です。酒類製造免許は原則として引き継ぐことができません。つまり、会社から工場だけを購入しても、その日からワインや日本酒は製造できません。買主は改めて免許取得が必要になります。そのため酒類事業では株式譲渡が選ばれることが多い理由の一つです。
買い手が確認するポイント
結論:買い手は「①製造免許」「②酒税申告」「③製造数量」「④品質管理」の4分野を重点的に確認します。

①製造免許
- 有効か
- 条件付きか
- 更新履歴
- 行政指導歴
②酒税申告
- 酒税納付状況
- 税務調査
- 修正申告
- 滞納の有無
③製造数量
酒類免許では製造実績も重要になります。過去数年間の製造量・出荷量・在庫量なども確認されます。
④品質管理
食品衛生法だけではありません。HACCP・温度管理・製造記録・ロット管理なども重要になります。
なお、酒販店のM&Aでは、店頭販売のみか、EC販売が可能か、卸売可能かによって企業価値も変わるため、販売免許の確認が重要になります。
酒類事業M&Aのメリット
結論:売り手は免許を維持したままの円滑な引退・廃業回避、買い手は免許・ブランド・顧客基盤の即時獲得という、双方にとって明確なメリットがあります。
| 売り手のメリット | 買い手のメリット |
|---|---|
| 廃業費用が不要 | 取得困難な製造免許を確保できる |
| 従業員の雇用維持 | 既存ブランド・顧客基盤を獲得 |
| ブランド・銘柄を残せる | 輸出・EC展開の足がかりになる |
| 取引先との関係継続 | 設備・在庫をそのまま活用 |
| 引退資金を確保 | 売上を早期に拡大 |
デューデリジェンスで確認される事項
結論:許認可・税務・品質管理・契約関係の4分野は、酒類事業M&Aのデューデリジェンスで必ず確認される項目です。
許認可関係
- 酒類製造免許
- 酒類販売業免許
- 食品営業許可
- 建築確認
- 消防関係
税務関係
- 酒税申告書
- 消費税・法人税
- 税務調査資料
品質管理
- HACCP
- 品質マニュアル
- クレーム履歴・リコール履歴
契約関係
- 仕入契約
- 販売契約
- OEM契約
- 海外輸出契約
なお、酒税滞納・虚偽申告・不正製造・無免許販売・名義貸し・法令違反などがある場合、免許取消しの対象となる可能性があり、M&Aでは必ずデューデリジェンスで確認されます。
【参考統計】酒類免許の事業者数データ
結論:国税庁の最新統計(令和7年3月31日現在・令和6年度)から、品目別の事業者数を把握することで、M&A対象市場のおおよその規模感がつかめます。
国税庁統計では、製造免許について「製造者数」、販売免許について「販売業者数」が公表されています。免許数・免許場数・事業者数はそれぞれ異なる点に注意が必要です(1社が複数免許を保有するケースがあるため)。
酒類製造免許の品目別事業者数
| 品目 | 製造者数 | 製造免許場数 |
|---|---|---|
| 清酒 | 1,602者 | 1,679場 |
| 合成清酒 | 61者 | 70場 |
| 連続式蒸留焼酎 | 81者 | 104場 |
| 単式蒸留焼酎 | 799者 | 850場 |
| みりん | 98者 | 108場 |
| ビール | 467者 | 550場 |
| 果実酒 | 733者 | 801場 |
| 甘味果実酒 | 306者 | 341場 |
| ウイスキー | 173者 | 216場 |
| ブランデー | 199者 | 238場 |
| 原料用アルコール | 89者 | 101場 |
| 発泡酒 | 2,361者 | 2,585場 |
| その他の醸造酒 | 1,399者 | 1,477場 |
| スピリッツ | 1,635者 | 1,784場 |
| リキュール | 1,773者 | 1,931場 |
| 粉末酒 | 8者 | 10場 |
| 雑酒 | 1,263者 | 1,339場 |
| 品目別延べ合計 | 13,047者 | 14,184場 |
重複を除いた酒類製造者の実数は、製造者3,812者・製造免許場4,208場です。「日本酒の酒蔵は何社あるか」という文脈では清酒製造免許を持つ1,602者が一つの基準になりますが、休造中・試験免許・複数工場保有などが含まれるため、実際に稼働している酒蔵の数とは完全には一致しません。
酒類卸売業免許の事業者数
| 卸売免許の区分 | 販売業者数 | 販売場数 |
|---|---|---|
| 全酒類卸売業免許 | 1,722者 | 4,650場 |
| ビール卸売業免許 | 306者 | 1,165場 |
| 洋酒卸売業免許 | 1,824者 | 3,392場 |
| 輸出入酒類卸売業免許 | 3,399者 | 4,670場 |
| 店頭販売酒類卸売業免許 | 26者 | 150場 |
| 協同組合員間酒類卸売業免許 | ― | 10場 |
| 自己商標酒類卸売業免許 | 463者 | 1,139場 |
| 自製酒類卸売業免許 | 87者 | 363場 |
| その他の酒類卸売業免許 | 38者 | 91場 |
| 卸売業者実数 | 7,865者 | 15,630場 |
酒類小売業免許の事業者数
| 小売免許の区分 | 販売業者数 | 販売場数 |
|---|---|---|
| 全酒類・一般 | 86,907者 | 165,206場 |
| 全酒類・特殊 | 5者 | 102場 |
| その他の酒類・一般 | 783者 | 1,070場 |
| その他の酒類・特殊 | 400者 | 418場 |
| 通信販売のみ | 3,191者 | 3,545場 |
| 小売業者実数 | 91,286者 | 170,341場 |
一般酒類小売業免許を持つ事業者は酒販店だけでなく、スーパー・コンビニ・百貨店・ドラッグストア・ホームセンターなども含まれます。
M&Aの観点から注目したい業態
| M&A対象となりやすい業態 | 関係する免許 | 事業者数 |
|---|---|---|
| 日本酒の酒蔵 | 清酒製造免許 | 1,602者 |
| 焼酎蔵 | 単式蒸留焼酎製造免許 | 799者 |
| ワイナリー | 果実酒製造免許 | 733者 |
| ビール・クラフトビール会社 | ビール製造免許 | 467者 |
| 発泡酒・一部クラフト系製造者 | 発泡酒製造免許 | 2,361者 |
| ウイスキー蒸留所 | ウイスキー製造免許 | 173者 |
| ジン等のメーカー | スピリッツ製造免許 | 1,635者 |
| 梅酒等のメーカー | リキュール製造免許 | 1,773者 |
| 酒類輸入・輸出会社 | 輸出入酒類卸売業免許 | 3,399者 |
| EC酒販事業者 | 通信販売限定の小売免許 | 3,191者 |
酒類業界全体のM&A対象企業数を考える場合は、品目別事業者数を単純合計するのではなく、製造者の実数である3,812者を基礎に考える必要があります。一方、日本酒酒蔵を対象とする場合は、清酒製造者数の1,602者が市場規模を見る際の有力な目安になります。
出典:国税庁「酒類製造業及び酒類卸売業の概況(令和6年アンケート)」「酒類小売業者の概況」公表統計(令和7年3月31日現在)
アイアールアイM&Aコンサルティングが選ばれる理由
結論:酒類業界のM&Aでは酒税法・酒類免許・食品衛生法・不動産まで踏まえた総合的な提案力が求められるため、専門知識とネットワークを持つ当社ならではの支援が可能です。
酒類業界のM&Aでは、酒税法・酒類製造免許・酒類販売業免許・食品衛生法・農地・ブランド価値など、通常のM&A以上に専門的な知識が求められます。
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- 酒類業界に特化した企業価値評価
- 許認可を踏まえたスキーム提案
- 税務・法務・行政手続を見据えたサポート
- 全国の食品メーカー・酒類メーカー・投資会社とのネットワークを活用したマッチング
まとめ
結論:酒類事業の価値は決算書だけでは測れません。免許の状態・製造実績・ブランド・顧客基盤を総合的に評価することで、想像以上の譲渡価格につながるケースもあります。
酒類事業では、「設備やブランドを引き継げば事業を継続できる」と考えがちですが、実際には酒類製造免許・酒類販売業免許の取扱いがM&Aの成否を左右する重要なポイントになります。
特にワイナリーや酒蔵、クラフトビールメーカーでは、株式譲渡と事業譲渡で免許の取扱いが大きく異なるため、スキーム選択を誤ると事業継続に支障をきたすおそれがあります。M&Aを検討する際は、企業価値だけでなく、許認可や酒税、食品衛生法への対応状況まで含めて事前に確認し、酒類業界に精通した専門家へ相談することが成功への近道となります。
よくある質問
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👤 監修者
佐藤 信(さとう あきお)
2026.07.27 更新
