8 Views

第20話 見えていなかった現実

数字の違和感を、見て見ぬふりはできなかった。——そこから、すべてが変わった。

順調に見えた案件ほど、見えていない問題が潜んでいる。
デューデリジェンスが、隠れていた現実を照らし出した。

譲渡契約締結後、デューデリジェンスが本格スタート。すべてのリスクを洗い出し買い手に正確に伝えることが我々の責任だ。財務資料の精査中に人件費の内訳に明らかな違和感を覚えた。残業代が同規模同業他社の平均3,250,000円に対して320,000円と著しく低い。


デューデリジェンスは、事業承継の本当の姿を映す鏡だ。
数字の違和感が、すべての始まりだった。

残業代の未払いが複数名分で発覚。A〜D複数スタッフへの未払い残業代リストが明らかに。これは大きな問題だな。残業が多いのに手当が少ないって前から不満はありましたと現場スタッフ。このままじゃみんな辞めちゃうかもしれませんと不満が蓄積していることも判明した。


M&Aの給与未払い問題は、表面上の数字には出てこない。
現場の声を聞かなければ、見えなかった現実だった。

キーパーソンの山口大輔が退職届。さらに販売リーダーと製造スタッフも退職予定。キーパーソンの退職が相次ぎ事業の継続に影響が出る可能性が高い。売上POS4570万円と帳簿売上3820万円に750万円の差額。現金売上の抜き取りと未納税が発覚。消費税未納約182万円が2件、合計未納税額約280万円。案件は一気に危機的状況へ。


退職の連鎖、現金の抜き取り、未納税——。
事業承継リスクが、次々と積み重なっていった。

給与未払い、退職の連鎖、抜き取りと未納税、こんなに問題が隠されていたなんてと言葉を失う佐藤。まだ全ては分からない、だが今分かった事実を一つずつ整理し隠さず買い手に伝えるしかない、厳しい状況だが逃げるな、これがプロの仕事だと上司。今後の対応方針として全ての事実を徹底的に確認整理する・リスクの金額を正確に算定する・修正条件補償価格調整等を検討する・買い手への説明資料を作成する・オーナーにも事実を確認し対応を協議する。


すべてのリスクを正確に伝える。
それが、M&A仲介における誠実さの証明だ。

契約はしたけれど、ここからが本当の戦いだ。この店の未来をつなぐために、絶対にやり切らなければと佐藤の決意。次回第21話決裂寸前、買い手の信頼が揺らぐ。


隠れていた問題と、正面から向き合う。
逃げない。
それが、この仕事に就いた理由だ。

次回 第21話「連鎖する問題」
随時更新

配信中の全話を読みたい方はこちらから!

「マンガで知るM&A仲介会社の日常」

この話の登場人物

佐藤恒一

佐藤 恒一
主人公・27歳
元エンジニア
→ M&A仲介営業

黒木 隆司

黒木 隆司
上司・45歳・部署マネージャー

全員のプロフィール・人物関係は
登場人物ページ →


By | 2026年6月4日